審美歯科普及協会

治療方法のご紹介

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歯周病と全身疾患の関係

歯周病が直接ほかの疾患の原因になることはないのですが、ほかの疾患と相互影響して、その疾患を悪化させたり、お互いに増悪させたりすることがあります。その意味で、歯周病は軽く見てはいけない、おそろしい病気でもあるのです。

歯周病と全身疾患の関係を整理していきます。

歯周病と誤嚥性肺炎

日本人の死因として、肺炎はがん、心疾患に次ぐ第3位で、およそ1割の方が肺炎で亡くなっています。その肺炎の原因として目立つのが「誤嚥性肺炎」です。

「誤嚥(ごえん)」はむずかしい漢字ですが、「嚥」は「嚥下(えんげ)」、つまり「飲み下すこと」の意味で、誤嚥とは「まちがって飲み下してしまうこと」を指します。本来、食道をとおって胃に落ちるはずの食べ物が、まちがって気管、気管支、肺に入り込んでしまうことです。

この「飲み下す」という行為は、日常的でありながら実は「アクロバット的」と言っていいくらいむずかしいことをしています。のど元の図を見ると、「なんでわざわざこんなややこしいデザインにしたのか?」と言いたくなります。気管が前側、食道はその背後にあり、口腔から咽頭、食道へいたる「食べ物のたどる道」は、鼻から気管にいたる「息のたどる道」を横切るようにクロスしているのです。しかも、気管は食道よりもずっと太くなっています。つまり、ただでさえ食物は気管に落ちやすくなっているわけです。

そうならないように、気管と食道の分かれ道のところに「喉頭蓋(こうとうがい)」という弁があり、食べ物が「息の通り道」を横切るときだけ気管の入り口をふさいで食べ物を食道へみちびきます。この実にたくみな交通整理を、私たちは無意識のうちに、毎日何度も行っているのです。

この無意識下の交通整理をつかさどっているのが「嚥下反射」という脳幹からの信号で、「口を閉じ」、「かむのを中断」、「一瞬だけ息を止め」、「喉頭蓋を閉じる」という連動した動作をほとんど同時におこなわせています。これほどの仕事をおこなっている「嚥下中枢」は非常に優秀な管制官ですが、しかし残念ながら、嚥下中枢に血を送る血管は細くて曲がりくねっており、加齢とともに詰まったり血行不良になったりしやすいのです。すると優秀な管制官にもミスが多くなり、唾液や食べ物が気管に落ちてしまう「誤嚥」が起きてしまいます。気管上部に異物が入ると、ふつうはせきをして排出しようとしますが、せきをつかさどる「咳反射」もまた、加齢とともにおとろえてしまいます。このため、就寝中を中心に、気付かないうちに食べ物や唾液が肺に落ちてしまう「不顕性誤嚥」もしばしば起こります。

口腔内に歯周病がありますと、歯周病原因菌が唾液や食べ物に混じって気管支や肺に落ちていくことになります。たとえ少量の唾液、小さな食べ物のかけらでも、歯周病菌は粘膜に炎症をおこしていきます。これが誤嚥性肺炎です。

歯周病は、誤嚥性肺炎にかなり直接的な影響をおよぼしていると考えられています。誤嚥性肺炎患者の炎症原因菌を分析すると、全体の3分の2以上が口腔由来の菌で、そのうち半数以上が歯周病原性グラム陰性嫌気性細菌でした。

こうしたことからわかるように、歯周病は肺炎に強い病原性を持っています。逆にいうと、歯周病を治すことは日本人の死因の1割を占める肺炎のリスクを下げることにつながります。

歯周病と糖尿病

歯周病は糖尿病とも密接に相互影響しあっており、「歯周病が糖尿病を悪化させ、糖尿病が歯周病を悪化させる」という相互悪循環をまねくと考えられています。

歯周病が進んで歯周ポケットが深くなると、バイオフィルムに守られて歯周病原性グラム陰性嫌気性細菌が繁殖するようになります。ボツリヌス菌や破傷風菌、ガス壊疽菌など危険な細菌は嫌気性細菌に多いのですが、ジンジバリス菌に代表される歯周病原性グラム陰性嫌気性細菌もその例に漏れず、やっかいなはたらきをします。
歯周病菌のせいで歯周ポケットに炎症が起きると、体内に侵入した細菌やウイルスを迎え撃つはたらきをするマクロファージが出てきて、歯周病菌と戦います。歯周病菌が優勢だと、マクロファージは援軍を呼ぶために「炎症性サイトカイン(TNF-α)」という物質を放出します。歯周病菌が勢いを増すほどに、この炎症性サイトカインTNF-αはより多く放出されることになります。

このTNF-αには、血中の糖を体細胞に取り込んで血糖値を下げるインスリンのはたらきを阻害する性質があります。したがって、TNF-αがたくさん放出されていると血糖値が上昇することになり、糖尿病の症状が悪化します。さらに、炎症が起きているときなどに血液中にあらわれる「C反応性タンパク(CRP)」という物質もあり、これもまた糖の代謝をさまたげるはたらきをします。

歯周病菌による炎症は、TNF-αとCRPを大量に発生させ、糖尿病を悪化させます。歯周病が糖尿病の直接的な原因となるとまではいえませんが、糖尿病の強力な応援団になってしまうことはたしかなのです。

反対に、歯周病は糖尿病による数ある合併症のひとつとも考えられます。糖尿病にかかると、まず唾液の分泌量が減少します。そのため口腔内が乾燥しがちになり、唾液による制菌作用が下がり、歯周病菌が繁殖しやすくなります。また、歯周溝浸出液の糖分がふえるため、歯周病菌の繁殖にとって好条件となります。なによりも細菌を攻撃する免疫機能が低下するため、炎症による組織破壊が進みやすくなります。

つまり、

  1. 歯周病の悪化(炎症性サイトカインTNF-αの増加)
  2.  糖尿病の悪化(TNF-αによるインスリンの機能低下)
  3. 糖尿病の悪化による免疫機能の低下
  4. 歯周病のさらなる悪化(TNF-α、いっそう増加)
  5. 糖尿病のさらなる悪化(インスリン機能、いっそう低下)

という負のスパイラルが生じます。

たいへんおそろしい話です。しかし逆にいうと、「歯周病を治す」という、そんなにむずかしくない医療行動をとることによって、この負のスパイラルは断ち切れるということでもあります。歯周病を治すことで糖尿病が改善されることが期待できるのです。

歯周病と血栓性疾患

数ある歯周病菌の中でも「極悪ナンバーワン」の呼び声高い菌に「ジンジバリス菌」があります。偏性嫌気性細菌に属し、酸素に触れると死んでしまう弱い菌ですが、歯周ポケット深くにもぐり込んでプラークの中でバイオフィルムに守られながらしぶとく増殖します。糖ではなくタンパクをエサとして代謝し、硫化水素やメタンなどのガスを発生します。これが口臭の原因となります。

歯周ポケット内で増殖しながら、酵素を出してタンパクを分解しますが、これが歯周ポケットの溝を深くし、アタッチメントロス(歯茎の縮退)をまねきます。ジンジバリス菌はみずから深くした歯周ポケットに定着、じわじわと毒素を出しつづけ、歯茎だけでなく歯槽骨にもダメージを与えていきます。

さらに、歯茎に出血部があると、ジンジバリス菌はそこから血管内に侵入して、血小板に付着して全身に拡散していきます。ジンジバリス菌が全身疾患を引き起こしていくのはここからです。ジンジバリス菌は血小板に付着する性質がありますので、血小板や赤血球を引きつけて血のかたまりをつくります。つまり「血栓」を形成したり、「アテローム性プラーク」として血管内膜に沈着したりするのです。
血栓が血流にのって脳内の細い血管に達し、そこを詰まらせたとすると、それは「脳梗塞」となります。詰まらせた血管が血液を供給していた脳の部位がもつ機能に応じてさまざまな症状が出ます。「左右どちらかの半身にマヒが生じる」、「視野の一部が欠ける」、「言葉が出にくくなる」といった兆候があったら、すぐに病院の脳神経外科外来に行って下さい。近年はたいへん有効な血栓溶解剤がありますので、早期に処置すれば症状が劇的に改善し、良好な予後も期待できます。

また、アテローム性プラークが沈着し、肥厚すると、当然そのぶんだけ血管は細くせまくなり、血行が悪くなります。これが脳内の血管で起きれば上記の脳梗塞に似た軽い症状が出るでしょう。こわいのは、全身に血液を送る心臓の筋肉そのものに血液を供給する「冠動脈」で血行不良が起こることです。心臓の筋肉への血流不足によって起きる疾患が「虚血性心疾患」と総称されます。心筋梗塞や狭心症は、急性の心室細動や心停止をまねきかねない非常に危険な病気です。これらも不整脈や動悸など前駆症状がありますので、心当たりがあれば早めに医師に相談なさってください。

さらに、「閉塞性血栓性血管炎」、通称「バージャー病(ビューガー病)」という血栓による病気にも、ジンジバリス菌が関与しているうたがいが濃厚です。これは腕や足の動脈が血栓で詰まってしまい、潰瘍や壊死を生じさせ、ひどくなると腕や足を切断しなければならなくなることもあるおそろしい病気です。原因はまだよくわかっていませんが、喫煙と発症率に相関関係があることははっきりしており、腕や足の血栓から口腔由来の歯周病菌、とくにジンジバリス菌が検出されています。喫煙といえば、歯周病を悪化させたり、その症状に気付きにくくさせたりする悪影響があるとされます。喫煙の害はほかにも数え上げればキリがないほどなので、喫煙される方には卒煙をつよくおすすめします。

脳梗塞、虚血性心疾患、閉塞性血栓性血管炎と、大きくわけて3つの血栓性疾患を挙げましたが、いずれもジンジバリス菌との関連がつよく疑われており、歯周病がある人における血栓性疾患の発症率は、ない人の15%増しから3倍ちかくにもなります。

歯周病と動脈硬化・心内膜炎

歯周病と動脈硬化にも関連性が指摘されています。上記のアテローム性プラークも動脈硬化の一因になります。

2011年、新潟大学大学院医歯学総合研究科歯周病学科の山崎和久教授らにより、歯周病が動脈硬化を悪化させるメカニズムが明らかにされました。動脈硬化の主原因には有名な「コレステロール」がありますが、コレステロールには「善玉」とされる「高比重リポタンパク質(HDLコレステロール)」と「悪玉」である「低比重リポタンパク質(LDLコレステロール)」の2種類があります。善玉コレステロールには、血管壁にこびりついた悪玉コレステロールを回収するはたらきがありますが、ジンジバリス菌を中心とする歯周病菌は、その善玉コレステロールを減らしてしまうことがわかったのです。

また、感染性心内膜炎という疾患もあります。心臓の中の弁に細菌が感染してかたまりをつくり、それが崩れることで弁を急速に損傷させるとともに、崩れたかたまりが塞栓となって上記の血栓性疾患と同じように心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしていく、急性で全身性の危険な病気です。

これの感染源は歯周病とは限りませんが、歯周病菌が主要な役割を果たしていることはほぼ確実視されています。

歯周病と女性に多い病気

歯周病と女性に多い、ないし女性に特有の疾患との間にも関連性が認められています。

妊娠性歯肉炎

一般に、女性は妊娠すると歯肉炎にかかりやすくなるとされています。妊娠性歯肉炎といい、歯茎の腫れ、出血がおもな症状です。
これには女性ホルモンが大きく関与しているといわれています。歯茎から浸みだしたエストロゲンという女性ホルモンが、ある種の歯周病菌の好物でその増殖をうながしてしまいます。また、エストロゲンの作用で歯肉が過剰形成されてしまい、腫れの原因となることもあります。そのほか、プロゲステロンという女性ホルモンは炎症のもとであるプロスタグランジンを活性化します。
これらの女性ホルモンは、妊娠期間中はふだんの10倍以上も分泌されるといわれ、そのため、妊娠中期から終期にかけて、妊娠性歯肉炎は起こりやすくなります。

産科医や助産婦の中には「出産が済めば治りますよ」と軽くあつかってしまう人もいます。しかしそれは危険な考え方です。妊娠性歯肉炎には、次に挙げるような危険性があるのです。たとえ症状が軽くても、軽く見るべきではありません。

早産・低体重児早産

妊娠した女性に基礎疾患として歯周病があった場合でも、妊娠性歯肉炎として新規に発症した場合でも、早産や低体重児の出産というリスクが高まることが指摘されています。陣痛と子宮収縮をうながすのはプロスタグランジンですが、このホルモンは炎症性サイトカインTNF-αの刺激によっても分泌を促進されます。そのため、歯周病による炎症があると、そこで放出されたTNF-αがプロスタグランジンの分泌をうながし、その作用で陣痛と子宮収縮が起こり、早産・低体重児出産となる……という因果関係が生じます。歯周病による早産・低体重児出産のリスクは妊娠中のタバコやアルコール、高年齢などによるリスクの7倍以上にものぼります。
また、口腔内の歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して直接胎児に感染してしまう危険性も指摘されています。

歯周病の治療のためにX線や麻酔を使うこともありますが、近年は妊婦のためにX線や麻酔などのつよい薬物を使わない療法も開発されています。しっかり治療しましょう。

骨粗鬆症

妊娠とは無関係になりますが、女性ホルモンが関係してくるもうひとつの疾患に「骨粗鬆症」があります。骨粗鬆症は、全身の骨の強度が低下し、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気です。日本では推定で約1,000万人の患者がいるといわれ、そのおよそ9割が女性です。

骨粗鬆症の中でも、閉経後の骨粗鬆症は、単純なカルシウム不足からくるのではなく、ホルモン分泌に大きくかかわる卵巣の閉経後の機能低下によりエストロゲンの分泌が低下し、骨の代謝がうまくいかなくなることから起こります。腸でカルシウムの吸収がうまくおこなえなかったり、カルシウムの吸収をたすけるビタミンDの生成が弱まったりすることも影響する場合があります。こうして全身の骨がもろくなると、当然歯を支える歯槽骨ももろくなることから、歯周炎が進行しやすくなります。それまで歯周病が歯周炎にまでいたらず、歯肉炎にとどまっていたとしても、閉経後骨粗鬆症をきっかけに歯周炎に進んでしまうこともありうるということです。

妊娠後期に、エストロゲンが大量分泌される局面でも妊娠性歯肉炎が起こりやすくなるのですが、逆にエストロゲンが欠乏してしまっても歯周病リスクは高まるわけです。

また、骨粗鬆症の薬としてビスフォスフォネート製剤(BP系薬剤)がよく処方されますが、これを服用している人が抜歯などをすると、歯の周囲の骨が壊死するなどの有害事象があるとの報告があります。歯科の治療をおこなう際に、ビスフォスフォネート製剤を服用していることを歯科医師に伝えるようにしてください。